トップページ > シリーズ 学生突撃レポート > Vol.004(学会誌「咸臨」2006年1月第4号より)

シリーズ 学生突撃レポート Vol.004 深田サルベージ建設(株)編

1.はじめに

大阪市港区、地下鉄中央線大阪港駅の1番出口を出てすぐに辰巳商会ビルがある。
その6階に深田サルベージ建設株式会社の本社がある。

写真1
写真1

エレベーターを降りてすぐに、深田サルベージ建設を代表する起重機船「富士」の模型(写真1)が展示されていた。模型ではあるが、圧倒的な存在感を放っていた。是非実物を目にしたいところである。

今回の取材ではまず会社概要についてお話を伺った。

深田サルベージ建設株式会社は、明治43年7月呉市にて深田海事工業所として発足して以来90年以上「海」に携わってきた会社である。

当初は海難救助業者として出発し、昭和24年7月法人組織に改めるとともに、それまでに培われた貴重な経験と技術を生かして海洋土木、曳航、バージ輸送、重量物荷役、鉄鋼構造物運搬・組立・据付、海洋開発事業部門へと業種を拡げ、戦後の技術に対応した諸設備の整備拡充に努めてきた。深田サルベージ建設は世界最大級の3,700トン吊り起重機船「武蔵」をはじめとして多数の作業船を保有する総合海事業者として、国内外において事業を展開している。

海難救助では海難の発生に対して広汎な地域に所在する各基地に常時配船待機中の作業船を迅速に動員し遭難船の救助に対応し、また多用途作業支援船、ROV及び有人潜水艇により、外洋・深海での沈没船や航空機等の捜索、回収作業にも従事している。

鉄構工事では鉄構ヤードや造船ヤードにおける海上プラットホームや船体ブロックなどの組立、ゴライアスクレーンやアンローダーなど造船フィールド設置や岸壁荷役設備の組立据付、橋梁架設など、大型起重機船の得意とする作業や高所作業含めて溶接配管配線まで統合的に施工している。レインボーブリッジや関西国際空港連絡橋架設工事等はその業績の一つである。

海洋土木工事では港湾建設、護岸、ケーソン製作・据付、海底掘削、浚渫、杭打並びに杭抜、航路標識の設置および撤去、橋脚構築、埋設トンネル敷設、海底輸送管敷設、海中鉄構設置、海底ボーリング、その他海洋土木関連工事を実施している。

その他にも起重機船やデッキバージを使用しての超重量物の船積、輸送、水切作業、ロールオン・ロールオフによる積揚作業等のドライ輸送や船舶、海上構造物のウエット曳航等を国内は勿論、日本と海外又は第三国間での輸送を行っている。

今回の取材では、上記のような幅広い事業の中でも橋梁架設工事にスポットを当てることにした。橋梁架設工事に関しては、同工事に深く携わってこられた技術担当責任者の方々にお話を伺った。

2.橋梁架設工事

写真2
写真2

橋梁架設工事に関しては、大阪市大正区に架橋している「千歳橋架橋工事」を例にして深田サルベージが担った役割や同工事がどのように進んでいったかをお話していただいた(写真2に千歳橋の位置を示す)。

2.1 架橋工事の経緯

まず事業主が架橋に関して立案をし、施工主に施工を依頼する。この段階から深田サルベージ建設は施工主の一員として参画する。

深田サルベージ建設は工事施工業者である。主な工事作業として以下の3つのSTEPを行う。

  • STEP1:橋桁をバージに載せる。
  • STEP2:バージと起重機船を架橋地点まで曳航する。
  • STEP3:バージから連結位置まで吊り上げる。

工事前の計画段階で深田サルベージ建設は、様々な業務をしなければならない。具体的にはメーカーが大組立した橋桁を吊り上げる起重機船の選定を行う。というのは橋桁を組んだ堺市から架橋地点まで大きな橋を二つくぐらなければならない。また275m、3,600tに及ぶ橋桁を吊り上げるパワーを有し、かつ経済的に作業を行え、すぐに調達できる起重機船を選定する。次にSTEP1、2の計画段階において最も難関である関係団体への許可申請である。

まずは海上保安庁の工事許可をとらなければならない。そしてバージと起重機船を曳航する曳船が約20隻必要とするためプロペラの回転等による漁業への影響も考慮し漁業団体から許可を得る必要があった。さらに工事日に港湾内で作業、営業する全ての船舶に関して運航休止を依頼しなければならない。この点が担当者とって最も大切なところである。

また現場で働く作業員と事業者間の調整も重要な仕事である。事業者の計画と実際に現場で作業をする作業員の間では若干の違いが起こることも珍しくないようである。そこで両者の意志統一を図るのも安全かつ効率の良い作業を行う上で重要になってくるのだそうだ。

STEP1〜3に関する緻密な計算と打合せが発案以来数年に亘って行われてきた。

そして工事日当日を迎える。しかし前日から非常に強い風が吹いており、工事当日も治まる気配はなかった。工事を行うには極めて困難な状況であった。海洋土木業者にとって最大の難敵は天候と海象である。

しかし施工者達にとって、簡単に工事を中断するわけにはいかなかった。この日のために何年も苦労を重ね、ようやくたどりついた日である。今日工事をしなければせっかくの関係団体等との協議事項が無駄になり、次の工事日の確保も難しいのである。もう深田サルベージ建設にとっては覚悟を決めて安全確保には最大限の対策を講じ「やるしかない」のであった。

作業は最終確認のミーティングを終え、午前4時に始まる。まずはSTEP1の橋桁を陸地から16,000t積の大型バージに搭載する作業が始まる。しかし強風のため吊上げた橋桁が空中で安定しない。補助ロープ等を用いトランシーバーで綿密に連絡をとりながら慎重に橋桁を降ろしていく。もしここで姿勢制御に失敗すれば、橋桁はバージに激突していたという。橋桁の搭載が完了したところでSTEP2へと移る。バージを曳航するだけでも8隻の船で曳航する。これもまた旋回性能を考慮しプロペラの海洋環境への影響を最小限にすべく慎重に架橋地点まで曳航していく。

そして最後にSTEP3、連結位置までの吊上げ作業を行う。深田サルベージ建設の真骨頂でもあり、最大の見せ場でもある。常時連絡をとりあい、慎重に吊上げていく。ここでもまた強風に作業が阻まれてしまう。起重機船により連結位置手前50cmまで引き上げなければならない。ここまでくればモノをいうのは机上の計算や理論ではなく、起重機船の操縦士、連結部分で作業する現場の人々の「腕」である。

写真3
写真3

長年に亘る経験や実績に裏付けられた、数値で評価できないノウハウがここでは一番重要になってくる。深田サルベージ建設の高い実績もこの現場の職人の経験や技術なくしては語れないのだそうだ。

そして連結作業が始まる。無数の穴にボルトジョイントを施し、午前4時に始まった「千歳橋」架設工事は16時に完了した。

余談ではあるが、関空連絡橋(写真3)の架設工事の際は工事期間が夏季であったため、熱による鋼材の膨張を防ぐために夜間にボルトジョイントが行われた。

2.2 橋梁架設の魅力

技術担当責任者から最後に橋梁架設の魅力、そして学生へのメッセージをいただいた。

「まず工事が終わったときというのは、大きな仕事をやり遂げた、という達成感があります。そして自分の作った橋を通ったときは非常に感慨深いのです。そして橋梁架設に携わる最大の魅力は『地図に残る仕事ができる』ということです。なかなかこのような仕事はできませんし、誇り高く思っています。そしてまたこのような大きなプロジェクトをしてみたいと思っています。

そして今の学生の皆さんにはもっと元気良く、目標を持って積極的に活動してほしいです。そして先人が築きあげてきた技術、経験、ノウハウを継承してほしいと思っています。日本の高い技術力を支えてきたノウハウはまさに日本の『財産』でもあります。この『財産』をずっと後世に伝えていってほしいのです。」

3.今後の事業展開

最後に今後の事業展開、展望をお聞きした。

「国内橋梁架設工事は内陸での工事を残すだけで、関西地区では大きなプロジェクトはありません。再来年度からの羽田空港拡張工事にも参画すべく努力中です。これからは今まで以上に活躍の場を見出していくつもりです。港湾工事として海底石油開発に関連して海外での港湾設備の設置等を目的にした「サハリン計画」にも参加します。

またこれからの環境問題に関して工事部門として協力できるように要請があればすぐに対応できるように準備を整えています。例えばタンカーの座礁事故による油流出が起これば流出防止、除去に協力していきます。」

4.取材を終えて

私が今回の深田サルベージ建設の取材で見聞きしたことは非常に貴重な経験であり、これから生きていく上での一つの糧になることを確信しています。しかしながら私が感じたことを十分に文章にまとめきれないことに不甲斐なさも感じます。

今回の橋梁架設に関する取材の中で、「地図に残る仕事」という言葉が強く印象に残っています。そして「また大きな仕事をしたい」とおっしゃった時の技術担当責任者の生き生きと輝いた目が今でも脳裏に焼き付いています。深田サルベージ建設が長年に亘る高い実績は「大きな仕事」に対する憧憬と実際に達成してきた業績に裏付けられた自信、そして同氏が強調されてきた現場の「ノウハウ」によって築き上げられてきたのではないでしょうか。一方で、この貴重な「ノウハウ」を確実に後世に伝えていくための対策を講じる必要があるのではないでしょうか。

最後になりましたが、今回の取材で深田サルベージ建設株式会社の取材に応じていただいた方々、社員の皆様には大変お忙しい中、貴重なお時間を割いていただいて懇切な応対をしていただき、心より御礼申し上げます。

またこのような機会を設けていただいた日本船舶海洋工学会、ならびに編集委員各位にこの場をお借りして深く感謝いたします。


水野 勝則(みずの かつのり)

大阪大学大学院工学研究科 地球総合工学専攻
船舶海洋工学部門 前期課程一年
船舶構造強度学
(KANRIN (咸臨) 第5号 (2006年3月) 発行当時)

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